カプグラ症候群(ソジーの錯覚)とは

カプグラ症候群(ソジーの錯覚)とは

カプグラ症候群とは家族や恋人、親友などが全く同じ外見をした他人と入れ替わっているという妄想を持つ精神疾患です。

妄想の対象は人間に限らず動物や物体、場所、時間のこともあります。

妄想性人物誤認症候群の一つに数えられることが多いです。

入れ替わりや背乗りを疑う

カプグラ症候群はよく知っている人物をその人ではなく、似ている別人、偽者、双子の片方などと妄想します。

自分の偽者が近くにいると妄想することもあります。

入れ替わったと本人が考えている相手に対し猜疑心や被害妄想を持つことが多く自分は偽者によって監視されていると警戒することもあります。

どこかの国や組織がスパイ目的でそのようなことをしていると疑うこともあります。

いわゆる背乗り(※1)といわれる行為です。

相手の外見に対し患者がときどき本物との違いを指摘することもあります。

カプグラ症候群は急性、一過性、慢性の形態で発生する可能性があります

(※1)背乗り:はいのり。実在する人物の戸籍を乗っ取ってその人物になりすますことを指す警察用語。

カプグラ症候群が関係する事件

カプグラ症候群の患者が殺人や傷害事件を起こすこともあります。

日本の事件

日本の裁判でカプグラ症候群に関連する事件が争われたことがあります。
1984年に自分の両親が他人と入れ替わっているという妄想を抱き殺害した事件です。

被告人はシンナーの吸引を行っておりそれによって別の男女が両親になりすましていると考えました。
東京高等裁判所はカプグラ症候群とはいえそれが人格を完全に支配していたとはいえないとして責任能力ありと判断しています。

外国の事件

外国でも自分の父親がロボットであると妄想し、バッテリーを外すために頭を割ったという事件があります。
また自分の母親に成り代わった他人によって殺されると思い殺害した事件もあります。
これらは全て最近の出来事です。

カプグラ症候群の発症率

トルコ・ウクロヴァ大学のルゥ・タマム博士らの調査によると過去5年間、大学病院の精神科部門に入院した920人のうち12人がカプグラ症候群の基準を満たすことが分かりました。

精神科に入院している人の中での発症率は1.3%ということになります。

その中で統合失調症の人は50%でした。

男女別にみると女性は1.8%、男性は0.9%となっています。 女性の発症率のほうが高くなっています。

『精神医学・心因性および体性精神障害ハンドブック』でも女性と男性の比率は約3対2とされています。

健康な人も含んだ全人口に対する発症率は分かっていません。

最初の症例報告と名称の由来

親しい人が他人と入れ替わっているという妄想は1923年フランスの精神科医ジョセフ・カプグラとレブール・ラショーによって最初に報告されました。

最初の症例は「マダムM」と呼ばれる53歳の女性のものです。

マダムMは自分と夫、子供、医師、警察庁長官などと瓜二つの替え玉が複数存在しているという妄想を抱いていました。

当時は「ソジーの錯覚」と呼ばれました。

ソジーとはプラウトゥスの戯曲『アンフィトリオン』の登場人物の名前です。

1929年に心理学者レヴィ・ヴァレンシィによって「カプグラ症候群」と呼ぶことが提唱されました。

カプグラ症候群の原因

カプグラ医師の最初の報告によればカプグラ症候群の原因は器質的なものではなく心因的なものとされていました。

それが広まり愛情不足や幼児期への退行による妄想と考えられるようになりました。

配偶者や両親など親密な相手に対しての妄想が多いことからも説明がつきやすかったのかもしれません。

しかしその後、脳の外傷による器質的な原因による発症が報告され始めました。

現在では認知症やその他の脳の障害が原因と考えられることが多いです。

前頭葉や側頭葉などの関連を指摘されていますが確定はされていません。

薬の副作用として現れることもあります。

親近感が奪われる

カプグラ症候群は顔の形態認知は正常でも情動認知が正常に行われないため、家族などの親密な相手が同じ外見をした別人に入れ替わっているという誤認が生じるのではないかと考えられています。

つまり見た顔とその存在が脳の中でうまくつなげられないのです。親近感が奪われるともいえます。

心理学者のハディン・エリスとアンドリュー・ヤングがカプグラ症候群の患者5人について馴染みのある顔を見たときの反応について報告しています。

それによると患者は顔を認識することは出来ましたが親しい人間に対し通常起こるはずの自律神経反応はなかったとされています。

ガルバニック皮膚反応による検査

汗などの湿気により体の表面の電流の抵抗が変化することをガルバニック皮膚反応と呼びます。

親しい人と見知らぬ人を見たときではこの反応は変化します。

神経科学者であるヴィラヤヌル・S・ラマチャンドランとウィリアム・ハースタインの研究ではカプグラ症候群の患者は家族の写真を見たときも見知らぬ他人の写真を見たときも反応に変化がなかったことが分かりました。

ラマチャンドランはカプグラ症候群の原因は顔が通常認識される側頭皮質と辺縁系の間の切断であると仮定しています。

カプグラ症候群の患者が家族と電話で話すときは本人であると信じていることもこの説が有力である手がかりとなります。

他の疾患との併発

カプグラ症候群は統合失調症の患者に見られることが多いです。

中でも幻覚や幻聴、被害妄想、誇大妄想を特徴とする妄想型統合失調症が最も多いとされています。

他にはレヴィー小体型認知症、てんかん、ビタミンB12欠乏症、その他の脳機能障害での症例が報告されています。

診断と治療法

カプグラ症候群は稀な疾患でありよく理解されていない状態です。

そのため診断する決定的な方法はありません。診断は主に患者の心理的評価に基づいて行われます。

治療につても十分な研究が行われていないため、エビデンスに基づくアプローチはないとされています。

臨床での治療法としては向精神薬などの投薬治療が行われることが多いです。

認知行動療法などの心理療法が効果的であると主張する人もいます。

カプグラ症候群を題材にした映画

2008年の映画『ブロークン』がカプグラ症候群を題材にしています。

その中で主人公は恋人が入れ替わっていると思い、それを臨床心理士に相談するとカプグラ症候群と言われ……というホラーサスペンスです。

内容の面白さについては意見が分かれそうです。

ショーン・エリス監督が写真家出身なので映像は凝っています。

参考文献:
Lut Tamam, et al. (2003). The prevalence of Capgras syndrome in a university hospital setting.
Hadyn D. Ellis, Andrew W. Young. (1997). Reduced autonomic responses to faces in Capgras delusion.
William Hirstein, V. S. Ramachandran. (1997). Capgras syndrome: a novel probe for understanding the neural representation of the identity and familiarity of persons.
Giannini AJ, Black HR. (1978). The Psychiatric, Psychogenic and Somatopsychic Disorders Handbook.

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