接待は意味がないどころか逆効果になるかもしれない

接待は意味がないどころか逆効果になるかもしれない

会社で契約を取りたいときや要求を飲ませたいときに接待をすることがあります。
接待をすることによって仲良くなれたり、大切な取引先だと思っているとアピールすることができます。

接待をする意味は色々とあると思いますが心理学的な理由で行っているならちょっと待ったほうが良いかもしれません。

具体的には「人間は空腹時は利己的になり他人と協力する気持ちが芽生えにくくなる」とか「食事をしながら交渉すると有利に事が運ぶ」という理由です。
こういった心理を信奉しすぎると危険です。

最近の実験では空腹であっても利己的になるとは限らないことが分かっていますし、全員が豪華な食事に価値を見出すとは限らないのです。

接待のやり方を間違うと意味がないどころか逆効果になってしまいます。

なぜ空腹時は非協力的になるのか?

なぜ空腹のときは他者と協力しなくなると考えられているのでしょうか?

その理由は生きるためです。

動物は何も食べなければ餓死してしまいます。
つまり空腹時は体が命の危機を感じている状態ともいえます。

この状態の人間は本能として自分の食糧は死守したいと思います。
他人に分けようとは考えません。

自分が生き延びることだけを考えるため他者のことを考える余裕はなくなるのです。

他にも空腹時には心理的にマイナスの影響を受けることが多いと言われています。

こういったことを知っていると接待中に交渉をしてしまおうと考えるのは自然かもしれません。

実験では有意差が出ない

ドイツのユストゥス・リービッヒ大学のジャン・ハウサー博士らが行った実験では空腹だからといって社会性を損ない非協力的になるとは限らないという結果が出ました。

実験の参加者たちは前夜の10時以降何も食べないよう言われていました。

そして「公共財供給ゲーム」というものを行いました。

どんなゲームか簡単に説明すると自分の持分(例えばコイン等)を拠出すると2倍になってリターンが返ってくるというものです。
しかしリターンは自分だけではなく参加者全員で分けなければなりません。

つまり全員が自分の持分を全て拠出するのが最適な選択となります。
しかし他の参加者が拠出して自分が拠出しなければ個人としての利益は最大となります。
そのため裏切り者が発生することもあるということです。

空腹の人がこういった行動を取ればお腹が空いている時の人間は非協力的になるという一つの証拠となります。

しかしこのゲームにおいて空腹の参加者が特別な行動を取ることはありませんでした。
比較のためにゲーム直前に食料が与えられていた参加者との間に優位差はなかったのです。

なぜこのような結果になったのか?

なぜ公共財供給ゲームでは空腹の人とそうでない人の差が出なかったのでしょうか?

それは参加者が本当に餓死しそうな状況ではないからです。

戦争や飢饉が起これば別かもしれませんが発展した社会では「明日食べ物がなくなるかもしれない」という危機を感じることはありません。

一時的にお腹が空いていたとしてもすぐに食事にありつけることが分かっているので危機を感じないのです。

そのため空腹時でも他者のことを慮る余裕があるということです。

つまり協力的かどうかという点においては食べ物のない会議室で交渉をしても、高級料亭で接待しながら交渉しても変わらないのです。

ランチョンテクニックは「満腹にしろ!」ということではない

交渉事は食事をしながらだと上手くいくと聞いたことのある人もいるかもしれません。
心理学では「ランチョンテクニック」と呼ばれる手法です。

勘違いしている人もいますがこれはお腹いっぱいになって満足したから要求を受け入れやすくなるということではありません。

美味しい食事や楽しい時間を過ごすことでそのイメージが一緒にいた人のイメージと結びつくから良い結果になるということです。

ですから不味い食事でお腹をいっぱいにしても交渉がうまくいくとは限りません。
むしろ接待した人に悪い印象を持ってしまうかもしれません。
こういった現象を「連合の原理」と言います。

交渉相手が美味しいものを食べることが好きな人なら接待をする意味はあるかもしれません。

しかし最近は美味しいものを食べさせてもらえることよりも時間を奪われないことのほうに価値を置く人も多いです。

これも食べることに苦労しない社会だからです。戦時中ほどには食べ物の価値は高くないのです。

「時間を奪った上に契約まで欲しいとは何事だ!」と感じる人もいるということです。

接待するかどうかは相手のタイプを見極めてから決める必要があります。

部下に対して「飲みに連れていってやるよ」と言うときも同じです。
「たかが数千円の飲食のためになぜ職場の人間に時間を提供しなければならないんだよ!」と思っている人もいるということです。

部下が自分のことを尊敬していて話を聞きたいと思っているのかどうか客観的に判断したほうが良いでしょう。

参考文献:Jan A. Häusser, et al,(2019),Acute hunger does not always undermine prosociality

心理学カテゴリの最新記事