コタール症候群(歩く死体症候群)とは

コタール症候群(歩く死体症候群)とは

コタール症候群とは自分は既に死んでいる、この世に存在しない、体の中身はなく骨と皮だけであるという妄想的な信念を抱く精神の疾患です。

「歩く死体症候群」「ウォーキングデッド・シンドローム」と呼ばれることもあります。

体感幻覚と妄想を主な症状とする重いうつ病とみなされることが多いです。

虚無妄想とその他の特徴的な症状

コタール症候群の特徴的な症状としては虚無妄想が挙げられます。

虚無妄想とは自分には何もなく虚しいものと思い込むことです。

他にも「自分は死なない」とか「罪深い存在である」という妄想があります。

器官の否定

虚無妄想の中で最も多いのが器官の否定です。
自分には脳や内臓、神経が存在しないと主張します。
体の中身が空っぽであると信じ込んでいるのです。

不死の妄想

自分は呪われているため自然死できないという妄想です。
そして永遠に苦しみを味わい続けなければならないと考えています。

罪悪感

自分は罪深いから食べてはいけないという罪業念慮を持つこともあります。
そのまま餓死してしまったという症例もあります。

心気症的な妄想

ちょっと咳をしたりくしゃみをするだけで自分は重篤な病気なのだと思い込むことを心気症といいます。
コタール症候群の患者でも心気症的な妄想は半数以上で見られます。

火の体験

コタール症候群の人の妄想に共通するものとして「火の体験」と呼ばれるものがあります。
これは暗闇の中で火が燃えているのを見ることです。
なぜこのような現象が起こるかは不明です。

症状を持つ割合

ケンブリッジ大学精神科のベリオスとルケが報告されている100の症例を調べました。
それによるとコタール症候群の患者は以下の割合でそれぞれの症状を持つことが分かりました。

  • 身体の虚無妄想:86%
  • 存在の虚無妄想:69%
  • 不安:65%
  • 罪悪感:63%
  • 心気症の妄想:58%
  • 不死の妄想:55%

有名な症例

コタール症候群という名前は症例を報告した医師の名前から取られていますがそれよりも前から似た症状が報告されていました。

【症例1】シャルル・ボネの報告

コタール症候群について確認できる最も古い症例は1788年チャールズ・ボネット(仏名:シャルル・ボネ)が報告した高齢女性のものです。

この時はまだ名前がついていませんでした。

この女性はある日、痙攣を感じた後から妄想が始まるようになりました。

「自分は死んでいる」と言い出し死装束を着せ棺桶にいれるように娘に頼みました。

あまりにしつこく頼むため最終的に娘やメイドもその願いを聞き入れその通りにしました。

しかし彼女はいつもそこで大人しくしていたわけではなく暴れ出したりすることもありました。

石薬とアヘンによる治療で妄想がなくなったとされています。

【症例2】マドモアゼルX

最も有名な症例はパリの神経科医ジュール・コタールが1880年に発表した「マドモアゼルX」と呼ばれる43歳の女性の症例です。

この報告者の名前にちなんでコタール症候群と名づけられたのです。

マドモアゼルXは「私には脳、神経、胸、胃、腸がない」と主張しました。強い自己嫌悪も感じていました。

また永遠の呪いにかけられているため死ぬことさえ出来ないと信じていました。

そして最終的には餓死をしてしまいます。

【症例3】2013年・グラハム

最近だと2013年にグラハムというイギリス人男性が科学誌「New Scientist」でインタビューを受けたものが話題になりました。

彼は「脳が死んだ」と信じてコタード症候群と診断されました。

彼は重度のうつ病による自殺企図の後本当に死んだと考え墓地を訪れたりしました。

「私は食べたり、話したり、何もする必要も感じていなかった」と語っています。

グラハムの状態は心理療法と薬物治療で徐々に改善しました。

【症例4】日本のケース

日本国内でも大学病院から報告がされたり、精神科医が経験した症例を語っています。

論文データベースを検索したところ東北大学や市立室蘭総合病院などでコタード症候群の事例が報告されているようです。

ときどきテレビなどで芸能人が同様の症状の体験について言及することがありますがそれがコタール症候群であるかどうかは不明です。

ただし芸能人のようなハードで不規則な生活をしていると妄想を見やすくなることはあります。

コタール症候群の患者数と診断基準

コタール症候群の患者数について正確なデータは存在しません。

世界で100例ほどと言われたこともありますが、日本国内の精神科医からの報告だけでもそれなりの数が存在しますからもっと多いかもしれません。

ベルギーのゲント大学病院のハンス・デブルインらの調査ではコタール症候群の人々の平均年齢は約50歳となっています。

日本でも初老期に見られやすいという見解が多いです。

しかし高齢者の場合は認知症やその他の病気によって症状が見えなくなっている可能性も考えられます。

100例ほどという話が広まったのは有名な論文がデータ検証をした症例数が100だったからかもしれません。

またコタール症候群を診断するための明確な規定やリストは存在しません。

他の可能性のある条件が全て除外された後にのみ診断されることもあります。

そのため診断する人によって結果が変わる可能性もあります。

病名の由来となっているジュール・コタール医師は器官の否定だけでなく呪術的妄想や不死の妄想などの特徴がセットになってはじめて診断できると考えていました。

しかし現在では自分が死んでいるという妄想を持っているだけでコタール症候群と診断されるケースもあるようです。

コタール症候群の原因

コタール症候群の詳しい原因は不明です。

紡錘状回および扁桃体と呼ばれる脳の機能不全と考えられることもあります。

外傷による脳損傷により引き起こされることもあります。

コタール症候群の治療法

コタール症候群は抗うつ薬などの薬物療法、カウンセリングなどの心理療法によって治療されます。

脳に小さな電流を送る電気痙攣療法(ECT)が用いられることもあります。

これにより脳の化学的性質が変化し症状が改善される場合があります。

しかしECTは記憶喪失や混乱などの副作用を引き起こす可能性があります。

メディア(テレビと本)

コタール症候群についてメディアでもときどき言及されます。

2020年の天海祐希主演の医療ドラマ『トップナイフ』でも言及されていました。

アニル・アナンサスワーミーの書いた『既に死んでいる』とう本にも載っています。

この本では他の身体完全同一性障害(BIID)についても解説されています。

参考文献:Hans Debruyne, et al. (2011). Cotard’s syndrome.
G.E. Berrios, R. Luque. (1995). Cotard’s syndrome: analysis of 100 cases.
Förstl H, Beats B. (1992). Charles Bonnet’s description of Cotard’s delusion and reduplicative paramnesia in an elderly patient (1788)

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