嫌な記憶をフラッシュバックさせないためにテトリスをやると良いかも

嫌な記憶をフラッシュバックさせないためにテトリスをやると良いかも

人の脳は感情と結びついた記憶ほどいつまでも覚えています。

辛い体験や嫌な思い出ほど忘れることができないのもこのためです。

そしていつまでも心に残り続ける傷をトラウマといいます。
トラウマを負うことによって様々な反応が起こります。

その代表的なものがフラッシュバックです。
事件や事故当時の状況がそのまま再現されたような感覚になり痛みや臭いまで甦ることのある現象です。

(このフラッシュバック、過覚醒、回避というトラウマ反応が1ヵ月以上継続する状態がPTSD(心的外傷後ストレス障害)です)

フラッシュバックを起こりにくくするためにはテトリスをプレイするのが効果的ではないか?という研究があります。

衝撃映像のフラッシュバックが減った

オックスフォード大学のエミリー・ホームズ博士らの研究チームが次のような実験を行いました。

まず実験参加者は事故の衝撃的な映像を見せられます。

それから30分の休憩をとります。

そして3つのグループに分けられ10分間つぎのことをします。

  1. テトリスをするグループ
  2. クイズゲームをするグループ
  3. 何もしないグループ

その後、一週間にわたり衝撃的な映像の想起がどれくらい起こったかを記録してもらいました。

その結果、テトリスをしたグループがもっとも想起が少なかったのです。

次に少なかったのは何もしなかったグループで、もっとも想起が多かったのがクイズゲームをしたグループだったのです。

なぜテトリスがフラッシュバックの抑制につながるのか?

なぜテトリスをしたグループは衝撃映像の想起が少なかったのでしょうか?

それはテトリスをしたことによって脳が衝撃映像を記憶するために必要とするリソースが奪われたからと考えられます。

私達の脳は感情と結びついた記憶ほど強く残るといわれています。

トラウマ体験によりPTSD(心的外傷後ストレス障害)が発症する理由も同様です。

恐怖の感情と体験が結びつくことによって脳の中に固定されてしまうので再体験やフラッシュバックといった症状が出るといわれています。

しかし脳が感情と体験を結びつけようとするときにテトリスのような視覚と認知を同時に使う作業をすることでその邪魔をすることができるのです。

またこの実験では一週間後に衝撃映像の内容をどれだけ覚えているか?というテストも行いました。
その結果は3つのグループで差はありませんでした。

つまりテトリスは記憶力を落とすのではなく、体験と感情が結びつくことでフラッシュバックにつながるような記憶にしてしまう仕組みを阻害する効果があると考えられます。

なぜクイズゲームはトラウマを悪化させる可能性があるのか?

この実験のもう一つのポイントは同じゲームであってもテトリスとクイズゲームでは結果が異なったということです。

クイズゲームをしたグループは何もしなかったグループよりも衝撃映像を思い出す機会が多かったのです。

なぜこのようなことが起こったのでしょうか?

それは言語化のプロセスが関係していると考えられます。

私たちは事件や事故を体験したときにそれを言語化することで状況を理解し心の混乱を落ち着かせることができます。

しかし脳がその作業を行おうとしているときにクイズゲームのような言語を使用する作業を行ってしまうと邪魔をしてしまうのです。

それによって状況を理解し落ち着くということが出来にくくなりフラッシュバックのようなトラウマ反応を助長する可能性があるということです。

トラウマ体験をしたときに何気なくやってしまっている行動がPTSDを発症しやすくしてしまう可能性があるということを覚えておいたほうが良いのです。

自分のときだけではなく他人がトラウマ体験をしたときの声がけなども気をつけなければなりません。

【おまけ1】トラウマ体験の直後でなくてもテトリスの効果はあるのか?

この実験では衝撃映像を見てからテトリスをするまでの時間をもっと延ばしたらどうなるのか?ということも確認しています。

先の実験では映像を見てから30分後にテトリスをしましたが、4時間後にテトリスをしたらどうなるのか?ということも調べています。

その結果は同じでした。

テトリスをしたグループがもっとも想起の回数が少なく、何もしないグループ、クイズゲームをしたグループという順番になりました。

ただしこの実験では何もしないグループとクイズゲームをしたグループの差はわずかであり有意差ありとまではいえませんでした。

【おまけ2】翌日でもテトリスの効果はあるのか?

今回紹介した実験を行ったエミリー・ホームズ博士たちは数年後に別の実験も行っています。

それは翌日にテトリスをしても効果はあるのか?ということを調べたものです。

前回の実験と同様に衝撃映像を見せて翌日にそれを思い出させる画像を見せた後にテトリスをプレイさせたのです。

その結果、テトリスをプレイしたグループは衝撃映像の想起が少ないことが分かりました。

トラウマ体験の直後でなくとも効果はあるということです。

【おまけ3】本物の事故でも効果はあるのか?

ここまで紹介したのはすべて実験室での研究結果です。

実はエミリー・ホームズ博士たちは実際の事故でも効果を発揮するのかということも調べています。

イギリスのオックスフォードにあるジョン・ラドクリフ病院の救急科に来た事故の当事者や目撃者にその体験をしてから6時間以内にテトリスをさせたのです。

その結果、テトリスをした人たちはしなかった人たちに比べてフラッシュバックが少ないことが分かりました。

※ここで紹介した研究はサンプル数が少ないなどの制限があります。
トラウマ体験やPTSDの治療方法や早期介入への対策として推奨するものではありません。

(参考文献)
Emily A. Holmes, et al.(2010).Key Steps in Developing a Cognitive Vaccine against Traumatic Flashbacks: Visuospatial Tetris versus Verbal Pub Quiz
Ella L. James, Emily A. Holmes, et al.(2015).Computer Game Play Reduces Intrusive Memories of Experimental Trauma via Reconsolidation-Update Mechanisms
L Iyadurai, Emily A. Holmes, et al.(2018).Preventing intrusive memories after trauma via a brief intervention involving Tetris computer game play in the emergency department: a proof-of-concept randomized controlled trial