社会不安障害(社交不安障害)の認知モデルはマイナスの情報に対するバイアスがかかっているということは知られています。
つまり嫌なことや不安を隆起することばかり注目するようになっているということです。
2019年の研究では認知だけではなく記憶についても特別なモデルを持っている可能性が示唆されています。
社会的でポジティブな出来事は記憶が悪くなる
カナダのウォータールー大学のミア・ロマーノらの研究グループは社会不安と記憶についての実験を行いました。
197人の参加者にそれぞれ10ずつの社会的および非社会的なエピソードについて自分が体験しているように想像してもらいました。
これらのエピソードは半分がポジティブな結末、半分がネガティブな結末となっています。
例を挙げると「誰かとデートをして上手くいかなかった」というのは“社会的”で“ネガティブ”となります。
「一人で食べたゴハンが美味しかった」というのは“非社会的”で“ポジティブ”となります。
実験の参加者は自己の社会不安についての評価もしてもらっています。
そして最終的にそれぞれのエピソードの結末や詳細について出来るだけ思い出してもらいました。
その結果、高レベルの社会不安を持つ参加者は“社会的”で“ポジティブ”なエピソードについての記憶が悪いということが分かりました。
つまり他者との関わりのある出来事での良かった記憶についてあまり覚えていないということです。
上手くいったときは納得できないので覚えにくい
なぜこのようなことが起こるのでしょうか?
一つの理由として「スキーマ」が挙げられます。
スキーマとは物事を思考するときの信念のようなものです。
例えば社会不安障害の人が常に「私は人間関係が苦手」というスキーマを持っていたとします。
すると誰かとコミュニケーションを取るときも「きっと悪い結末になるに違いない」と考えます。
そしてその通りになると「やっぱりな」と納得します。
人間は納得したときの方が覚えやすくなりますから記憶に残るのです。
反対に物事が上手くいったときは「何か裏があるのではないか?」と納得出来ませんから覚え難くなるということです。
自分の記憶について考えてみる
社会不安障害を克服する方法の一つである認知行動療法などもこのスキーマを変えていくものです。
普段の自分に対する思い込みを変えることで日常生活の中での不安を軽減するのです。
嫌なことばかり起こると思っている人は良いエピソードを記憶しにくくなっているだけかもしれません。
そこに気がつくと社会不安障害を改善するためのヒントになるのではないでしょうか?
参考文献:Mia Rmano, et al. (2019). Social anxiety is associated with impaired memory for imagined social events with positive outcomes.